しっぽ

プロローグ: 再生の朝 鈍い音が響いた。 それは、誰もが知っている日常の中で、一瞬の隙間を切り裂くように生じた。 通勤ラッシュの混雑したプラットフォームで、男は何の躊躇もなくホームから身を投じた。 仕事に追われ、上司に叱責され、意味のない会議に疲れ果てた日々。 彼はもう、これ以上耐える理由を見つけられなかった。 「もういい…」 電車の鋼鉄の車体が迫る。 その瞬間、彼の人生の苦悩も終わりを迎えるはずだった。 そう信じた――その刹那、意識は真っ白に染まり、全てが無となった。 次に彼が目を開けた時、そこは見知らぬ世界だった。 青々と広がる空、見たこともないほど鮮やかな緑の草原。 「ここは…どこだ？」 ふと自分の手を見下ろす。 全く傷一つない身体。 それどころか、今までの人生で感じたことのない力強さが、内から溢れてくるのを感じた。 男は自分が何か大きな変化を遂げたことを、直感的に理解した。 「異世界転生…いや転移か？そんな馬鹿なことが…」 現実から逃げた先で待ち受けていたのは、フィクションの中でしか聞いたことのない異世界。 だが、彼の心に浮かんだのは期待感と好奇心、そして何よりも解放感だった。...